認知症の周辺症状『物盗られ妄想』の心理状態と対応方法。物盗られ妄想が続く期間と注意点。

2020年1月13日

※ この記事を読むのに掛かる時間は約10分です。

「私なんていらない人間なんだ」

 物盗られ妄想とは、本当は何も盗まれていないのに

「私の物が盗まれた!貴方が盗んだんでしょう!悪い人だ。貴方がそんな人間だと思わなかった。」

と騒ぎだしてしまう認知症の周辺症状の一つです。


 この認知症の周辺症状である物盗られ妄想が発症するときの心理状態。


 結論から言うと、

「私なんていらない人間なんだ。必要ないんだ。生きているだけで邪魔な存在なんだ」

 このような心理だと言われます。


 一見

「は?なんで?自己嫌悪から何で介助者が泥棒扱いされるの?」

と疑問に思うと思います。


 しかしそこには認知症者の深い苦しみの心理状態があるんです。

 まずはその説明から入って行きます。


 なお、医療面からは発症の原因は不明とされています。

 今回はあくまでも心理現象からの原因の説明になります。




認知症の物盗られ妄想が発症する時の心理状態

<泥棒扱いされてしまう介助者の特徴>

 貴方は認知症の方に泥棒扱いされた経験がありますか?

 もしあるなら、貴方はとてもそのご利用者のことを思って、頑張っている人です。


 そうなんです。

 物盗られ妄想で

「お前が盗んだんだろう!」

と泥棒扱いされる人とは、認知症者のために必死で頑張っている介助者なんです。


 何故ならこの

《その人のために必死に頑張る》

これが物盗られ妄想の原因だからです。



<介助されている者の心理>

 介助されている高齢者の心理をもっと具体的に見ていきます。

 実際に自分が出来ないことを、貴方に介助して貰います。


 すると

「ありがとう。本当は自分でやらないといけないのに、出来なくてごめんなさいね。」

このような感情になります。


 これは

『ありがとう』

とは言っていますが、感謝よりも

《不甲斐ない自分への自己嫌悪》

の方が強いです。


 このようなことが続くとどうなるでしょうか?

「何もできない私がいるせいでこの人にいつも迷惑を掛けてしまう。」

となります。


 今の高齢者は

「人に迷惑を掛けてはいけない」

と育てられていますから、このような感情は特に強い傾向にあります。


 更にこの感情が積もり積もっていくとどうなるでしょうか?

「あぁ、私なんていない方が良いんじゃないだろうか?私がいなければこの人にこんなに迷惑を掛けなくて済むのに。私なんて居なくなれば良いんだ。」


 このように自分の存在自体を否定し始めてしまうんです。

 これは貴方が認知症者のために頑張っているからこそ発生する感情ですよね。


 どうでもいい人に、雑な介助をされても

「この人に迷惑を掛けてしまう」

とはなりませんからね。



<自分の存在意義を無理矢理作り出す>

 自分の存在を消し去りたいくらいに強い自己嫌悪に陥ると防衛本能が働きます。

 どんな防衛本能か?

 それは、

《他者を悪者にすることで、自分が迷惑を掛けていることを正当化する》

です。


 もう見えてきましたよね。

 そうです。

 貴方が認知症者のために必死に頑張っているから自己嫌悪に陥り、自分の存在意義に意味を持たせるために、貴方のことを悪者に仕立て上げる防衛本能が働いた結果、物盗られ妄想が発症するわけです。


「確かに私は何も出来なくなってしまった。しかし、一見私に良くしてくれているこの人は実は私の物を盗んでいるんだ。ふざけるな!この泥棒が!」

とすることで、

「相手が悪いんだから、私が申し訳なく思う必要はない」

となるわけですね。


 これなら自分の存在意義を失うことはありません。

 だって自分は

《可哀想な犯罪の被害者》

なのですから。



<何故物盗られ?泥棒?>

 ここは私の勝手な推測ですが、お付き合い下さい。


 何故物盗られ、つまり泥棒にされてしまうのでしょうか?

 自分の存在意義とのバランスを取るためなら、別に泥棒の必要はないですよね。


 自分に良くしてくれる人を悪者にすれば良いだけで、別に泥棒の必要はありません。

 しかし、決まって泥棒なんですよね。


 何故でしょうか?

 それは恐らく、戦後の物がない時代を生きた今の高齢者世代にとって泥棒こそ悪の象徴だったからではないでしょうか?


「贅沢は敵」

と御国のために生活を切り詰め、必死に生きている中での泥棒は人の命を奪うのに等しい悪行だったのかと思います。


 だから高齢者世代にとっての悪の象徴

《泥棒》

が多いのかと思います。


 この考えが正しいのであれば、時代の流れで

《物盗られ妄想》

ではなくなる可能性もあると思います。


 今の40~50歳代の人達が認知症になり、介護を受ける主だった世代になる頃には

《怠け者妄想》

みたいになっているかもしれません。


 何故この世代の人達にとっての悪の象徴が怠けなのかは、世代間の価値観の違いに関するこちらの記事をお読みください。




物盗られ妄想が続く期間

<人は先が見えない事が辛い>

 介護をしているご家族にとって一番辛いこと。

 それは

「この状態がいつまで続くのか分からない。」

と言う事だと思います。


 単発的だったり、期間がわかっていればまだ頑張れる。

 しかし、いつまで続くか分からないから絶望感に飲みこまれるわけです。


 人は先が見えないまま耐えたり、待つ事が物凄く辛い生き物ですので。


 この説明についてはこちらの記事も参考にして下さい。



<物盗られ妄想が続く期間>

 認知症(アルツハイマー型認知症)による物盗られ妄想が続く期間は

《人によって違う》

これが研究者による正式見解のようです。


 しかし、

「それでは何の助けにもならないじゃないか!」

と思いまして、調べてみた結果、概ね長くて1年と言われています。


 そのため、

「どんなに長くても1年頑張れば!」

と思ってもらって問題ないと思います。


「人によって違う」

と言われると何年間も続くイメージを持ってしまいますが、長くても1年のようです!



<物盗られ妄想消失後の注意点>

 ただし注意点が一つあります。

 それは

「何故1年以内に物盗られ妄想が無くなるのか?」

その理由です。


 その理由とは、

『認知症が悪化し、物盗られの認識すら出来なくなるから』

だそうです。


 そのため、物盗られ妄想が消失し振り返ると

「もっとしてあげられることがあったのかもしれない。認知症が進行して安心感を持つなんて自分はダメな人間だ」

等と自己嫌悪に陥るご家族が多いようです。


 しかし私は自己嫌悪に陥る必要はないと思います。

 貴方はとても頑張って、やれる事をしたと思います。

 だからこそ、貴方のお陰で物盗られ妄想が無くなるまで生きていられるんです。


 物盗られ妄想が無くなるまで介護していた貴方のお陰なんです。

 貴方は凄い人です。

 そして、嫌悪感を持つのではなく胸を張って下さい。

 貴方は大切な人の命を繋いでいるのですから。



<貴方が周囲を攻撃し始める>

 自己嫌悪に陥ると人の心理がどうなるかはもう知っていますよね?

 物盗られ妄想の心理状態で知ったばかりですよね?


 そうです。

『他者を悪者にして攻撃するようになる』

です。


 これは心理面からの解釈なので、認知症がなくても起こります。


 もし物盗られ妄想を乗り越えた後に、貴方自身が自己嫌悪に苛まれていたら、貴方の脳は貴方の周囲を悪者にします。


 そして貴方は周囲を攻撃し、貴方が周囲に迷惑を掛け始めるかもしれません。


 そうなりたいですか?

 貴方は誇れることをしたのですから、胸を張って誇って欲しいと思います。


 周囲の誰もが貴方の凄さを理解してくれないなら、また私のブログでもツイッターにでも来て下さい。


 貴方は凄い人です。

 日本一の介護施設を作る介護士が保証します。




物盗られ妄想の対応・接し方

 普段から必死に頑張っている貴方。

 それなのにいきなり

「この泥棒め!悪者が!」

と言われるので、カチンと来てしまいますよね。


 しかし、その原因を知ったら少しは落ち着きましたか?

 それではここからは具体的にどのようにな対応、接し方をすれば改善が見られるのかを解説していきます。



<手を抜く>

 今の貴方はそのご利用者のために必死で介助をしています。

 それがやりすぎなだけです。


 そのためもう少し軽く考えて、今より手を抜きましょう。

 これは

「怠けろ。一切手を出すな」

と言っているわけではありません。


「適度な手抜きをしましょう。」

と言っているだけです。



<感謝を言葉で伝える>

 物盗られ妄想が発症しているご利用者は自分の存在意義を保ちたいだけです。


 そのため、

「私は何も盗んでいません。そもそもそんなモノ欲しくもないです。」

と否定することに何の意味もありません。


 むしろ、ご利用者が自分の存在意義を何とか保とうとしている防衛本能を壊そうとする行為です。


 そうではなく、そのご利用者の存在意義を日常から創出すれば良いんです。

 その方法が

《感謝を言葉で伝える》

です。


「○○さん、いつもこれをしていただき、ありがとうございます。とても助かっています。」

このような声掛けを接するたびに行うんです。


「感謝することが特にないんですけど」

と言う介助者がいますが、何でも良いんです。


「○○さん、トイレに来てくれてありがとうございます。今来て頂けたことで本当に助かりました。」

「○○さん、キチンと立ってくれてありがとうございます。それだけで本当に助かるんです。」

「○○さん、今オシッコしてくれてありがとうございます。今じゃないといけなかったので本当に助かります。」

「○○さん、健康でいてくれてありがとうございます。健康でいて頂けるだけでどれだけ助かっているか。」

 こんな感じで何でも感謝を言う事は可能です。


 私は物盗られ妄想に限らず、攻撃的なご利用者のケアプランには必ず

《普段から感謝や頼りにしている声掛けを行う》

と上げており、実際に現場でキチンと効果が出ており、穏やかになっています。



<頼りにする>

 これも感謝を言葉で伝えると同じ理由です。

 ご利用者の存在意義を日常から創出する方法です。


 何でも良いので、お願い事をするようにするんです。


 そしてその際には必ず

「○○さん、これをお願いしても宜しいですか?これは○○さんにしか頼めないんです。これをやっていただけるととても助かるのですが。」

のようにご利用者を頼りにしていると言うことを言葉で伝えます。


 恐らく最初は

「何だよあんたは!何でそんなことを私がやらないといけないんだ!酷い人だねこの人は。」

のように言われます。


 そりゃそうです。

 現時点で物盗られ妄想が出ているわけですから、心情的に貴方は

《悪者》

なわけです。


 ただでさえ悪者なのに、お願い事までしてくるのですから、更に悪ですよね。

 だから最初は更に酷い言葉を掛けられ得ます。


 それに耐えられないなら頼りにするのは少し待ち、感謝を伝えることだけで初めても良いと思います。

 私はご利用者のこの心理を知っていたので、頼りにすることも最初から始めましたが。


 そんなご利用者に対して、私の具体的な接し方等についてはこちらの記事をお読みください。

 流血したり、メガネを破壊されたり、結構やられています(^^;)




最後に

 人は自分の想いや努力に対して、必ず何かしらの見返りを求める生き物です。

 そのため、ご利用者のために必死に頑張っているのに、

「この泥棒が!悪者が!」

と言われてしまうとショックを受けたり、怒りを覚えたり、意欲・心が折られてしまうこともあると思います。


 しかし、このようにご利用者の心を知るとどうでしょうか?

 貴方の必死な頑張りがご利用者を追いこんでいた可能性があるんですね。


 貴方はもっと手を抜いて良いんです。

 そうすることが、ご利用者のためにも、貴方のためにもなるんです。


《何もしない優しさ》

と言う言葉がありますが、まさにそれかもしれません。


 その上で、普段から感謝を言葉で伝え、頼りにする。


 これって認知症とか物盗られ妄想に関係なく、今貴方の周りにいる大切な人達に対して行っても物凄く有意義なことですよね。


 最初は恥ずかしいかもしれません。

 しかし、それを行うのは必ず貴方の財産に変わります。

 ここでの財産とはお金と言う意味ではありません。

 幸福感と言う意味です。


 それだけご利用者に必死になれる貴方です。

 今貴方の周りにいる人達にこれが行えたら絶対に今より良くなります。

 介護をしている貴方が笑えない世界なんて誰も望んでいません。


 貴方ももっと自分を大切にして下さい。

 そのための感謝と頼りにすることです。

 是非この瞬間から実践してみて下さい。



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