介護の事故報告書を書くとどのように職員の身が守られるのか?元警察官が考えてみた。
介護現場での事故は全て犯罪

まずはこの事実を知っておいて下さい。
介護現場で発生した怪我を伴う事故は全て犯罪になります。
「転倒して内出血が出来た。」
はい、犯罪です。
業務上過失致死傷罪と言います。
しかし、現実問題犯罪として罪に問われませんよね?
何故でしょうか?
それは別記事にてキチンと説明をします。
今は、
《再発防止に尽力するために軽微な事故は罪に問わないことになっている》
とだけ理解しておいてもらえれば問題ありません。
事故報告書を書くと本当に職員の身を守れるの?

介護職員は必ず一度は言われた経験があるのではないでしょうか?
「ヒヤリハットや事故報告書はキチンと書きなさい。いざと言う時に貴方の身を守るために重要な証拠になる書類なんだよ」
と。
では、事故報告書をキチンと書いていると、どのように職員の身を守ることになるのでしょうか?
実はこのように
「職員の身を守る書類になる」
と言っているベテラン職員達も知りません。
だって、彼らはそもそも事故報告書が身を守った経験をしたことはないでしょうし、それ以前に裁判や犯罪捜査の手順や中身すら知りませんよね?
つまり、昔から何となく言われているから自分達も後輩にそのように指導をしているだけなんですね。
そこで、元警察本部刑事部にもいた経験のある私が推測していきます!
私も介護現場での事故を事件化したものを扱った経験はないので、推測になってしまうことはご了承下さい。
犯罪捜査の流れ
<事故報告書は免罪符ではない>

まず始めに、犯罪捜査において事故報告書がどの段階で、どのように活用され得る書類かを考えます。
多くの介護職員が
「事故報告書をキチンと書いていれば検挙されることはない。訴えられることもない。」
とイメージしているかもしれませんが、それはあり得ません。
それでは免罪符になってしまいます。
この日本において免罪符は存在しませんので、事故報告書を書いていれば検挙されないと言うことはあり得ません。
事故報告書が職員の身を守ると言うなら、それは
《犯人として検挙された上で》
事故を起こした職員に有利に働く資料として活用する場面があると言う意味になります。
<被害者側の証拠集め>

被害者側の認識に基づいて証拠集めをします。
そのための手続きとして
◎、被害届
◎、実況見分
◎、供述調書作成
等をします。
◎、被害届で、被害者の受けた被害の状況を明確にします。
◎、実況見分で、事件の客観的状況を明確にします。
◎、供述調書で、被害者の認識を明確にします。
それらに基づいて、その認識や被害等が正しいことを証明していくわけですね。
<加害者側の証拠集め>

犯罪捜査は被害者側の言い分だけを聞いて進めるものではありません。
被害者が保険金や損害賠償等目当てで嘘をつく事もありますからね。
そのため必ず犯人側からの証拠集めも行います。
そのための手続きとして
◎、供述調書作成
◎、引き当たり捜査
等をします。
◎、供述調書で、加害者側の認識を明らかにします。
◎、引き当たり捜査で、その認識が正しいかどうかの客観的状況を明らかにします。
それらに基づいて、その認識や状況等が正しいことを証明していくわけです。
<お互いの認識を比べる>

警察は被害者の認識の証明と、加害者の認識の証明、両方を行います。
そして、それぞれの主張や認識にズレがないかを見ます。
ズレが少なければ少ないほど、被害者と加害者の認識は正しく嘘をついていないことになります。
一方でズレが大きい場合には、被害者と加害者のどちらかの認識が誤っているか、どちらかが嘘をついている事になります。
このようにして犯罪捜査は進んでいきます。
事故報告書が活用されるのはどの段階?
<加害者の認識の正否判断>

実際はもっと細かいのですが、大枠では先ほど紹介した流れになります。
この中で事故報告書が事故を起こした介護職員の身を守るために出てくる場面はどこか?
それは供述調書作成と、引き当たり捜査の両方です。
事故発生直後の観察と今の記憶の残り具合、今の記憶の正確さ等を見る時です。
「加害者の認識が合っているか?」
を客観的な状況で見る時ですね。
<記憶違いは、記憶違い>

例えば、ご利用者が右腕を怪我しているのに、供述調書では
「ご利用者は左腕を怪我していた」
と言ったら変ですよね?
そのようなズレが生じたら、刑事が疑うのは
◎、加害者が嘘をついている。
又は
◎、加害者の記憶違い
です。
では加害者が嘘をついているのか?
記憶違いをしているだけなのか?
それを確かめるためにはどうしたら良いのでしょうか?
それは、事故発生直後に
「ご利用者が左右どちら側を下に転倒したのか?」
を加害者がキチンと確認している証拠があれば良いわけです。
それが書かれている書類こそが事故報告書なわけです。
だから、キチンと左右どちら側から転倒したのか記載されている事故報告書が提出されていれば
「あれ?発生直後に書いた書類には右側を怪我していると記載されていますが、記憶違いじゃないですか?」
と再確認されるわけですね。
<記憶違いが嘘になる!>

実際に怪我をしているのが右側なのに、取り調べでは
「左側を怪我していました」
と供述した場合。
事故報告書に左右が記載されているから、
「記憶違いじゃないですか?」
と再確認されると言いました。
問題はここで事故報告書がキチンと書かれていない場合です。
その場合には
「あれ?この加害者の記憶違いかな?」
ではなく
「こいつ嘘をついていやがるな!」
となり得るんですね。
取り調べで嘘をつく加害者の印象は最悪です。
キチンとした事故報告書を作成していないと、嘘つきにされてしまうかもしれないんですね。
<供述が二転三転していると捉えられる>

事故報告書がキチンと書かれていない状態でも刑事の感覚から
「あれ?記憶違いしているのかな?」
と再確認されたとしても、事故を起こした介護職員(加害者)には不利になり得ます。
その場合、事故発生直後にご利用者が怪我をした箇所をキチンと見ていないと解釈されますので。
事故報告書の目的は再発防止ですから、その目的のための行動が取れていない証明になってしまい、どちらにしても印象は悪くなります。
更に、事故発生直後の観察状況が粗悪で、キチンと観察した証拠がないため
「供述が二転三転している」
と捉えられます。
誰でもニュースで一度は聞いたことがある言葉ですよね?
「犯人は言っていることが二転三転して一貫性がない」
と。
これって裁判のプロじゃなくても印象は悪いですよね。
本当に認識誤りだったとしても、嘘をついているのと同等の印象の悪さになるんです。
《事故報告書が職員の身を守る》
と言う部分に関しては、このような情状部分が大きいのかと思います。
施設を守る
<事故報告書は職員より施設保護?>

捜査手続き上で考えていくと、印象に大きな影響があるだけですので、職員個人を守る強さはそこまで強くないことが分かりますね。
最初の印象では
「事故報告書をキチンと作成していれば検挙されない」
くらいに思っていたわけですからかなりの落差ですよね。
しかし、介護職員個人ではなく、施設を守る場合には結構強い力を発揮するように感じます。
事故報告書がキチンと書かれていれば、その施設は普段からキチンとしたケアをしている施設であるとの証明になり得ます。
そして、
「キチンと再発防止に取り組んでいるけれど、事故が発生してしまった。不可抗力な部分が大きい!」
との主張が可能になります。
と言うことは、事故報告書がキチンと運用されていれば、監査や民事裁判上でも施設は守られやすくなるように思います。
<事故報告書は反省文になってはいけない>

「事故報告書が反省文になってはいけない」
と言う部分は施設を守るために重要な気がします。
キチンとした事故報告書の運用がされていれば、普段から適切なケアが行えているとの証明になるわけですからね。
事故報告書の適切な運用は再発防止であって、職員の反省の弁を述べる場ではありません。
だから、事故報告書の適切な運用をしていれば反省文には絶対になり得ないわけです。
施設として適切に再発防止を検討するなら、職員個人個人の反省の度合いよりも、客観的事実の方が重要な情報なわけですからね。
「すみませんでした。私に足りない部分がありました。」
では第三者は再発防止案を考えられません。
「足腰が弱いご利用者が一人で立ちあがり、バランスを崩して転倒しました。」
なら第三者の大勢が再発防止案を検討出来ます。
最後に
介護現場での事故が罪に問われるかどうかの判断は正直難しいです。
難しいから裁判で決めるわけですしね。
例えば、介護職員がご利用者を後方から呼び止め、振り向いたときにバランスを崩して転倒。
これは犯罪として罪に問われた事例があります。
捜査上の知識を基に
「介護現場における事故報告書の活用され方、職員の身を守るのかどうか?」
を考えていくと、介護職員個人の身を守ると言うよりも、施設を守ると言う意味合いが強いと言う結果になりそうですね。
そのことで
「なんだ、事故報告書をキチンと書いても大して身を守れないのか。なら今後は雑でもいいや」
と思った貴方!
それは少し安易ですよ!
と言うのも、今回はあくまでも検挙された場合限定の話です。
施設の存続、ご利用者の尊厳、適切な介護と言う部分では、キチンと事故報告書を作成するメリットは大きいです。
どうせなら適切な介護をしていると思われたくありませんか?
施設が存続できなくなったら困りませんか?
それなら、貴方にだって適切な事故報告書をキチンと書くメリットはあります。
事故報告書作成の意味は、自分の身を守ることが全てではありませんからね。
そこで、適切な事故報告書の作成方法に興味を持った貴方はこちらをお読みください。
書き方ではなく、具体的な記載例を知りたい貴方はこちらをどうぞ。
「ところで、この記事を書いている貴方はどなた?」
と疑問に思った貴方は私の自己紹介もご覧ください。
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