介護職員の持つべき死生観の基礎。貴方の考える「生きている」とはどんな状態のことですか?
1週間後の貴方は”貴方”ですか?

<ターミナルケアでは死生観が軽視されている>

介護職員には、人の生き死にに関する考え方、考察である死生観はとても重要です。
「もう死んでしまいたい」
このように訴えかけて来るご利用者は沢山います。
人生の最期を迎える場所として特養等の介護施設があります。
これだけでも生死に関する考え方を持つ必要性は何となく分かりますよね。
しかし、現在構築されているターミナルケアと呼ばれる終末期のケア方法は医療目線で構築されている方法になります。
そのため死生観が軽視されています。
私が学んだことのある介護職員向けとされているターミナルケアの本には死生観を重視している本は一冊もありませんでした。
全て言っている事は大差ありません。
それらでは
「もう死にたい」
と訴えるご利用者に寄り添えません。
そんな、自身の死とリアルに向き合っているご利用者の苦しみに寄り添うために介護職員は死生観を身に付ける必要があるわけです。
しかし、必要だとは言え、正直内容は難しいです。
そこで
「一人で学ぶのが辛い。ワケが分からない」
という介護職員さんのために、一緒に死生観を学んでいきましょうと言う次第です。
<生きている状態ってどんな状態?>
では早速介護職員向けの死生観の世界に入っていきます。
今精神的に追い込まれている人じゃない限り貴方は
「1日先も、1週間先も、1ヶ月先も、生きている」
と無意識に考えると思います。
では、その
「生きている」
という無意識の感覚は、貴方が1日先、1週間先、1ヶ月先にどのような状態だと
「生きている。生きていられた。」
と言えるのでしょうか?
恐らく貴方が今までに問われたことのない問いだと思いますので、
「うん?私は何を聞かれているんだ?」
と戸惑っているかもしれません。
しかし、読み進めて頂ければ言っていることのイメージがつきますので、分かりやすく順を追って考えていきましょう。
是非最後までお付き合い下さい。
なお参考にした資料はこのような死生観について哲学視点から捉えた
《イエール大学で23年連続の人気講義「死」とはなにか?》

と言う本です。
今まで考えたこともなかった視点での捉え方もあると思いますので、是非最後までお付き合いください。
ケース1:「私の意識があれば生きている」と考える場合
<感覚や記憶、思考力はそのままに>

「1週間後の私は生きている。生きていた」
このように思えるためには、貴方がどのような状態だったらそう言えるのでしょうか?
漠然と考えても難しすぎるので、仮定を設けて考えていきましょう。
まず、最初の仮定です。
それは、1週間後の貴方の意識が、今の貴方の意識の延長上にあれば
「生きていた。生きている。」
と考えます。
つまり、今の貴方の感覚のまま、1週間後の貴方も存在している状態です。
だから
「昨日はラーメンを食べた。一昨日はご利用者が不穏で大変だったなぁ。3日前は職員が休んで大変だった。4日前は・・・・」
のように思い出せるわけです。
1週間貴方の記憶、感覚のまま継続して存在し続けているわけですからこのように思い出す事が出来ます。
このような当たり前な感覚。
それがあれば
「1週間後も私は生きている」
と解釈する仮定です。
<意識継続での問題点>

しかし、これには一つ問題があります。
それは
《体が違っても生きていると言える》
と言う部分です。
そうですよね?
今の感覚や記憶、思考力が残っていれば生きていると言えるなら、
《体は別人のモノ》
になっていても生きていると言えることになります。
「1週間後も生きていると言える状態とは?」
を考えているだけなので、現代医学とか、科学的にその状態の実現が可能か、不可能か?は考えないで下さいね。
1週間の間に貴方は大事故に遭い全身を損傷。
脳移植により、体は全くの別人だけれど、感覚や記憶、思考力は今の貴方のまま。
これは今の貴方が考える
「1週間後も生きている」
の状態でしょうか?
介護職員としてこの状況をイメージしてどうでしょうか?
私は
「私は生きている!」
と言うには、死生観として、違和感が残ります。
「私の体があれば生きている」と考える場合
<体がそのままに>

先ほどは
「感覚や記憶、思考力等が継続して残っていれば生きていると言えるのでは?」
と仮定して考えました。
しかし、
「体がなくなっても私は生きていると言えるのか?」
と言う疑問が残りました。
そこで今度は
「1週間後に、今の私の体がそのまま残っていれば生きていると言えるのでは?」
と仮定します。
今の貴方の見た目、身体能力、声等は全てそのままです。
この状態なら確かに客観的には間違いなく貴方はそこに存在していますね。
恐らく周囲の人達からも貴方だと認識されることでしょう。
これなら
「私は生きている!」
と言えるでしょうか?
<体継続での問題点>

「体が残っていれば生きている!」
このように仮定する場合の問題点はもう分かりますよね?
そうです。
貴方の今の意識は残っていなくても、体さえ残っていれば生きているとされ得ると言うことです。
先の例では貴方の脳を別人の体に移植するケースを例示しました。
今度は、そのケースでいうなら逆の立場です。
貴方の体に別人の脳を移植すると言うイメージです。
そのため、今の
「1週間後も生きている」
と望んでいる今の貴方の感覚は消失しています。
果たしてこれは生きていると言えるのでしょうか?
介護職員として死生観を考える上で、これらとどう向き合いますか?
介護職員としてこれらの死生観と向き合う
<介護にこそ関係がある、生きている状態を考える死生観>

貴方は
「こんな事を考えるのが介護に何の関係があるの?死生観って死んだらどうなるの?等を考えることじゃないの?」
と思ったかもしれません。
しかし、今考えてきた
「生きているとはどのような状態?」
これは介護職員には物凄く身近なことです。
『死生観』
という言葉があるせいで貴方の中で関連付けられていないだけだと思います。
では今考えてきた
「生きている状態とは?」
が介護現場の死生観として身近で、どれほど重要な考察かを具体的に見ていきましょう!
<自分の記憶・感覚が消失する認知症>

重度の認知症によって記憶や思考力がドンドン消失していくご利用者がいます。
この人の認知症が急激に進行した場合に、このご利用者は1年後に生きていると言える状態なのでしょうか?
もちろん、生命維持はしている可能性は高いので、医療面で考えれば生きています。
・・・あれ?どこかでこれって考えませんでしたか?
そうです。
先ほどまで見てきた
「生きている状態ってどんな状態のこと?」
で見てきた内容と同じです。
認知症で自分を失う感覚とは、2つ目の仮定の話と同じですよね。
体が継続して残っているけれど、自分の思考や記憶、感覚は失っていく状態。
思い出して下さい。
体が残っているだけの状態は果たして本当に本人が
「自分は生きている」
と考える形の存在の仕方なのでしょうか?
認知症は
「自分がおかしくなっている。自分が消えていく」
と感じながら進行して行きます。
もし、これが本人の考える
「自分は生きている」
とは違う形だとしたらどうでしょうか?
恐らくこれは自分という存在の消失です。
貴方が
「これは生きているとは言い難いなぁ」
と考えた状態に近い状況にあるのがご利用者です。
「生きている状態とは?」
これを介護職員が死生観として考える重要性が少し見えてきましたか?
<自分の体感覚を失う全身麻痺>

逆の仮定の状態も介護現場ではあり得ます。
脳移植と言う事例は極端ですが、脳性麻痺によって動けず寝たきりのご利用者はいますよね?
自分の体を一切動かせない。
体の触覚も一切ない。
そんな状態で記憶や思考力は継続して残っている。
これは果たして本当に本人が考える生きている状態と言えるのでしょうか?
確かに記憶等の観点で、本人的には生きている感覚は残っていますが、体は消失した感覚です。
これも先ほど貴方は
「生きている状態と言うには違和感がある」
と感じたハズです。
体が消失した感覚。
そして、意識はあるけどそれ以外に自分が生きていると思える部分がない。
この状態で外部からのコミュニケーションと言う手段以外にご利用者本人に生きていると実感してもらえる手段がありますか?
これだけでも職員からの声掛けがどれだけ重要かわかりますよね。
このような視点での死生観。
それに触れないと思いもしなかった部分ですよね?
だから介護職員としてまず学ぶべき死生観とは
「生きている状態とはどんな状態?」
を選択したわけです。
最後に

貴方は日々何気なく
「1週間後も生きている。生きていたい」
と考えます。
しかし、今回のように、
「何をもって生きている状態と言えるのか?」
まで考えたことはないと思います。
どちらが正解ということではありません。
このように深い部分まで考えることが死生観を考えると言うことです。
これは哲学でもあるため正解はないんです。
ただし、
「このご利用者の考える”1週間後も生きている”と言う感覚はどのような状態を指しているのか?」
を普段から意識して考えておくことは物凄く重要なことです。
そして、寝たきりになってしまったり、認知症が進行してしまったりしたときに、そのご利用者の苦悩を理解できます。
ご利用者の心に寄り添い、心で会話をすることも介護職員の仕事ですよね?
きっとこの重要性が貴方に届いていると信じています。
この学びから
「何で死んではいけないの?」「もう死んでしまいたい」
このように訴えかけてくるご利用者に対して、適切に対応するための実践的な事を身につけたいと思った貴方はこちらの記事にお進み下さい。
実際に死と向き合い号泣してしまったご利用者と、私が向き合った時のエピソードに興味がある貴方はこちらの記事をお読みください。
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